N&S Train Station Kiss2010/11/15 20:48

こんなロマンチックなキスシーン、後にも先にも見たことありません。
今日はちょっと時間が出来たので(って山積みの仕事はどうした、ほったらかしにしてある仕事は!っていう理性のささやきには耳を塞ぎ)このNorth & SouthのDVDの最後のシーンについて一言(じゃなくなりそうだけど)。

まず二人が列車の駅で出会うに至る経緯です:

北部の街ミルトンの紡績工場主Mrソーントンは、事業の財政破綻の後、いまだ忘れ得ぬマーガレット、彼女の故郷である南部の田園的なヘルストンの村の牧師感を訪ねます。
あ〜、そしてこのシーン、たまりません、この眉間の縦皺、この眼差し!生け垣に咲く黄色いバラを手に、もう二度と会うことはないであろう愛するマーガレットに思いを馳せるMrソーントン。


一方、Mrベルの遺産を相続したマーガレットは、Mrソーントンの破産を知り、自分の資金を工場再建に拠出しようとミルトンの工場を訪ねます。廃墟のように静まり返った工場に現れたのはソーントンママ。ママはかつて息子の求婚を拒絶したマーガレットが赦せないんです、その彼女が今や工場オーナーなんですからね。「勝ち誇った顔して自分の財産を点検に来たのか」なんて彼女をなじり、彼の不在を告げます。



その二人がばったり、お互い北と南への帰途、途中駅で出会うのです。
北部行きの列車の待ち合わせでしばらく停車すると聞いて、列車からプラットフォームに降り立ったマーガレットは、入ってきた列車を見ると、えっ、まさか、あの車窓に見えるのは彼?



ええ、世の中にこんなにホットなbrooding handsome man without cravatが他にいるはずないでしょ、マーガレットさんよ。



彼の方もマーガレットを認め、プラットフォームに降り立ちます。この表情の変化、素晴らしい。


Mrソーントンがたずねます:'Where are you going?'
するとマーガレットがドギマギしながら(そりゃそうでしょう、目の目にこんな光景があったらねえ)'To London. I've been to Milton'と答えます。(ところで彼女の視線、cravat lessの首に行ってると思います。)


Mrソーントンの方は、'You'll not guess where I've been'と言って、胸ポケットから黄色いバラを取り出し、彼女に渡します。「まあ、あれはもうなくなってしまったと思ってたわ」と言う彼女に、生け垣で見つけたんだ、'You have to look hard'と答えます。意味深です。


またドギマギして(分かります、マーガレットさん)顔をふせバラを見ているマーガレットに、'Why wereyou in Milton?'とたずねる彼。



「ビズネスよ。ビジネスの提案があるの」という彼女。でも「ああ、ヘンリ−(一緒にミルトンについてきてくれたロンドンの弁護士)から説明してもらわなきゃ」という彼女を引き留めて彼女の腕に手をかけ(きゃ〜!)'You don't need Henry to explain'と低〜いセクシーな声で言うMrソーントン。この場で溶けてもしまわず、失神もしなかったマーガレットはすごい。



わあ、どうしよう、ドキドキ、のマーガレット。(ちなみにまた視線はcravat lessの首に行っていないか)。



ベンチに座って説明を始めるも、なんといっても間近にこんなゴージャズな存在があったらドギマギしちゃいます。それにしては、マーガレットさん、果敢な努力でした。



Mrソーントンの方は、彼の工場再建のために出資したいと説明するマーガレットの話に、もしかして彼女は自分のことを・・・って思い始めます。





彼女の想いを確信すると・・・thud, thud, thud!


感極まってその手を唇に持っていくマーガレット。よくやったぞ、マーガレット!



後は説明不要でしょう。















この世にもロマンチックな駅でのシーン、もちろんギャスケル夫人の原作には存在しません。そもそも、ヴィクトリア朝という風土で、公衆の面前でこんなシーン、絶対、ゼッタイあり得ないわけですからね。

ではギャスケル夫人の原作にキスシーンはないのか、といえば、描写はないけど存在しています。そこに至る原作のシーン、ああ、これもリチャードに演じてほしかったなあ。

舞台は列車の駅ではなく、ロンドンはハーレイ・ストリートにあるマーガレットのショー叔母さんの邸宅の書斎。工場オーナーであるマーガレットに経営破綻の報告にやって来たMrソーントンに、マーガレットは自分の資金援助の提案を説明しようとするのですが、その時、彼の声にマーガレットの鼓動は止まりそうになります:

His voice was hoarse, trembling with tender passion, as he said: —'Margaret!'

きゃああ〜、これリチャードの声で聞きたかったですよねえ!
それで、マーガレットですが、彼の方を一瞬見上げると、顔を伏せて両手で覆ってしまいます。すると:

Again, stepping nearer, he besought her with another tremulous eager call upon her name. 'Margaret!'

するとマーガレットはますます顔を伏せて机に顔を俯せんばかり。Mrソーントンは近づいて来て、彼女の脇にひざまずき、彼の顔を彼女の耳のところまでもってきて、囁きます:

'Take care.  — If you do not speak — I shall claim you as my own in some strange presumptuous way.  — Send me away at once, if I must go;  — Margaret!  —'

あああ〜〜、これ、リチャードの声で聞いたら、さすがのマーガレットもその場で溶けてしまうでしょう。'Margaret!'って参加も呼びかける声、聞きたかったですけどねえ。

この後、Mrソーントンが手帳にはさんであった(押し花?)ヘルストンの黄色いバラ(ちなみに複数形です)を見せるシーンがあります。マーガレットが「私にちょうだい!」と彼の手からバラをとりあげようとすると、Mrソーントンが言います:

'Very well. Only you must pay me for them!'

これに続くのは

'How shall I ever tell Aunt Shaw?' she whispered, after some time of delicious silenceというマーガレットのセリフ。

この'after some time of delicious silence'はもちろんキスシーンだったと思われるわけですが、ギャスケル夫人、そうはあえて言わないところがいいですね、ヴィクトリアンです。

この原作のエンディングも最高にロマンチックですよねえ・・・ため息。

というわけで、やはりちっとも「一言」じゃなくなりました〜。

こんなGoGも好き2010/11/15 21:16

調子に乗ってRH3以外で好きなGoGの写真を何枚か。












2000年、日本の雑誌のモデルに2010/11/15 21:33

2000年夏、日本にシェイクスピア公演で来日したRAは、日本の男性ファッション雑誌のモデルをやったらしいのです。一体何の雑誌だったのだろう。誰かご存知の方いらっしゃいませんか?


Danger! Danger! Robert Lovelace2010/11/19 20:56



この写真、もちろんN&Sのソーントン家でのディナー・パーティの時のMrソーントンなんですが、4月にBBC Radio 4でClarissaのラジオドラマをやった時、HPで使われていたイメージ写真がこれだったのです。たしかにこれ、ちょっと人相悪く見えますねえ。「イングランド随一のハンサムだけど、悪評高き放蕩者」っていうロバート・ラヴレスにはぴったり、ということで選んだ写真だったんでしょうか。もっとも、原作の『クラリッサ』(Clarissa, or, The History of a Young Lady)が出版されたのは1747~48年と18世紀半ばですから、鬘をかぶっていたはずですね。こんな鬘です。


う〜ん、BBCの選択は正しかったと思います。どうかなあ、RAならこんな鬘でも似合うだろうか。ちなみにこの写真は、ペンギン・クラシックスの表紙ですが、この本、厚み何センチあると思います?あまりの分厚さに計ってしまいましたよ。なんと8.5センチです!1500ページ近くあります。一巻本になっている『指輪物語』のペーパーバック(字の大きさはペンギンと同じで、版はこちらの方が小さい)でも5.7センチですよ。いかに異様に分厚いかお分かりでしょう。

『クラリッサ』といえば、同じサミュエル・リチャードソンの『パメラ』と並んで、初期英国小説として、英文学史には必ず登場する「古典」ですが、恥ずかしながら原作読んだことありませんでした。ショーン・ビーンがラヴレス役をやったBBCドラマのDVDは見ておりましたが。
これ、そのDVDの表紙です。ショーン・ビーンの鬘どうでしょう?やっぱり・・・シャープかボロミアの時の方がずっとハンサムに見えますねえ。


SBは好きですが、彼のロバート・ラヴレスにはまったくときめきませんでした。卑劣な悪漢、みじめな最期を遂げて、なんだか後味の悪いドラマで、二度見ようという気にならない作品でした。

ところが、ところがですよ、RAが同じラヴレスをやったこのラジオ・ドラマの『クラリッサ』は、1時間ずつ4回に渡って放送されたのですが、何度聞いても飽きない、聞くたびにますますリチャードの声、その芸術的としか言いようのない声の演技の素晴らしさに惚れ込んでしまうのであります。The Lords of the Northのオーディオブックと並ぶ、リチャードの声の傑作です、間違いなく。ああ、至福の体験でした。

BBC4のラジオ・ドラマは、ハティ・ネイラーという女性が脚本を手がけているのですが、もしかしたらこれもTVドラマ(男性のディレクターでした)との違いを生んだ一因かもしれませんね。たしかにラヴレスはもちろん悪漢なのですが、しかしなんとも魅力的なんですよお。クラリッサが自分を赦してくれないということを想像できなかったというラヴレスの想像力の欠如に悲哀を覚えたのも、才気にも地位にも魅力にも恵まれながら、結局は自らの妄想の犠牲者だったというラヴレスという男に憐れみを感じたのも、RAの声の演技の妙ゆえでしょう。脚本も卓越なものだったのだと思いますが、何と言っても決め手はRAの幅のある感情表現、微妙かつ繊細なニュアンスの絶妙な声の演技です。

原作でも初版のヴァージョン(これがペンギン版)では、ラヴレスはかなり魅力的な部分のある描き方をされていたのですが、作者リチャードソンの思惑(若い女性への道徳的警告)とは裏腹に、この危険な悪漢にときめく女性読者が続出したことに驚愕し、後の版では魅力的な部分を削ってしまったということです。ハティ・ネイラーは、初版のラヴレスを上手く活かしたのだと言えるでしょう。

というわけで、リチャード演じるこのラジオ・ドラマのラヴレスがあまりに素晴らしかったので、8.5センチのペンギン版に挑戦しようという気にまでなったわけです。でも・・・やっぱり実際手にとるとめげました。仕事に関係のない読書は通勤途中に、と決めているのですが、この厚さじゃ持ち歩けないもんね。C19にもっと果敢な/奇特な人がいて、読んではその都度報告してくれるというありがたいスレッドがあったので、それで済ませてしまいました〜。ガッツないねえ、はあ、ただの怠け者か。まあ、そのうち時間できたら読みましょう(ほんとか?)

それでそれで、このラジオ・ドラマが最高なのは、なんとリチャードのすばらしいバリトンの歌声を聞かせてくれたことなんです!ああ、感激のあまり涙しましたよ、私。ここでクリップが聞けます。

ところで、脱線しますが、RAがトーリン役に登用されたのは、この歌声が決めてだったに違いないって私思うんですけど!だってほら、トーリンは歌が上手くなきゃいけないわけで、ハープを奏でて歌うんですものね。'Far over the misty mountains cold/ To dungeouns deep and caverns old/ We must away ere break of day,/ To find our long-forgotten gold'. きゃあああ、リチャードがこれをあの声で歌うと思っただけで、溶けそうです。映画館で聞いたら気絶しそう。『クラリッサ』でほんのちょっと歌うのを聞いただけで、ほんと、体の芯がとろけそうでした。

ラジオ・ドラマでは、ところどころ上手に書簡文を取り入れているのですが、ラヴレスがクラリッサに宛てた手紙で'your devoted servant, Robert Loveless'っていうところや、クラリッサに向かって'dearest madam!'ってあの声で言われると、悶絶ものでした。こんな大傑作、どうしてCDにして売らないのだろうか。もちろん個人的には録音できたのだからいいけど、でもCDにすれば聞き逃した人も聞けるだろうし・・・と何度か嘆願の手紙を書きましたが、実現しないですねえ。残念です。私、電車の中でiPodで『クラリッサ』のリチャードの声にうっとり聞き惚れていて乗り越してしまったことが(一度ではないところが怖いんですけど)あります。The Lords of the Northでも一度やったことありますが、それは初めて聞いた時のことで、ストーリー(そしてリチャードの語りのうまさ)に夢中になっていたからでした。『クラリッサ』は違います。純粋にRAの声に陶然としていた結果です。リチャードの声と18世紀の文体(って実はすごくセクシーです)の組み合わせ、こりゃ危険だ、私は完全にノックアウトされました。

RAの恩師への追悼文/新しい車の広告2010/11/20 14:28

リチャードが10代の頃在籍したコヴェントリーのパティソン・コレッジという演劇学校での恩師でこの学校の創設者である、ベティ・パティソン(享年90歳)の葬儀がコヴェントリー大聖堂で行われ、リチャードの録音による追悼文が流されました。リチャードは今『キャプテン・アメリカ』の撮影中のため参列できなかったためです。

この実に心のこもった追悼文の中でリチャードは、1986年(ということは彼が15歳の時ですね)の成績表で、パティ先生が彼に演劇への道に進むことを薦めてくれたからこそ、今自分はこうして俳優として活躍できているのだと感謝を捧げています。

パティ先生は両親は別として自分に最も影響を与えた教師であったこと、歌やダンス、演技を教えてくれただけでなく、規律・自尊心・粘り強さ・スタミナをも自分に与えてくれたこと、先生の生徒であったことをとても光栄に思うと述べ、いくつかの学校時代の思い出に言及しながら、自分の成長過程を見守って支えてくれた先生に感謝しています。今の自分があるのも先生のおかげです、と感慨深いですね、ジ〜ンときます。そして、自分だけでなくあなたが長年にわたって育てた生徒たちを代表して「ありがとう」、と結んでいます。RAの誠実な人柄、伝わってきますね。

その後、パティ先生が好きだったミュージカル、『パリのアメリカ人』からの抜粋を朗読したそうです。(クリックで拡大)


特に最後のスタンザ、RAの今の胸の内に想いを馳せると涙なしには読めません。十代のRAが俳優になる夢を育み始めた頃からを振り返って、仕事の無いつらい長い時期もあって、でもこつこつとキャリアを積み上げてきて、とうとう『ホビット』でのトーリン役というすごい大役を仕留めた今、この恩師への彼の感謝を込めて朗読したこの詩、感慨深いですね。ああ、聞きたかったなあ!参列したパティ先生ゆかりの人々もさぞ感動したことでしょう。パティ先生、RAのような素晴らしい俳優を育てて下さって、ありがとう!


さて、もう一つニュース。リチャードは数多くの広告をやっていますが、最新のは韓国の車の宣伝です。
ここで、クリップを見られます:
ヒュンダイって英国だと「ハイアンダイ」って発音するんですね。
日本のTV広告でRAの声を聞ける日も遠くないかな。