Marquette大学のトールキン・イベント2013/05/18 11:11

久々にトールキンの記事です。

アメリカはミルウォーキー、Marquette(マーケット)大学のトールキン・アーカイブで、そのコレクションの一部を一般に公開するイベントが5月17日、行われました。

これがマーケット大学のRaynor Libraryです。


上の写真、昨日撮ったのですが、これ、夕方の7時半頃です。まだ明るいでしょう?

北国だけあります。ちなみに、3月初めはこんな景色でした。マイナス5度とかだったと思います。

さて、そのイベントですが、アーカイブの担当者、ビル・フリス氏の解説を交えて、45分ほどでしたが、22人の参加者。TheOneRing.netで宣伝されたので、ものすごい人数がつめかけるかも?という心配もあったようですが、毎月行われているイベントだそうで、別に過熱しなかったようです。

残念ながら、写真を撮ることは一切、許されなかったです。マーケット大学はトールキンの手稿を買い取ったけれども、版権はトールキン・エステイトが所有しているため。

1957年、まだ『指輪物語』が出版されて間もない頃、カトリック系の大学であるマーケット大学の図書館がオープンして間もない図書館のコレクション充実のため、カトリック作家 の手稿を集め始めたのだそうです。

トールキンはもちろん筋金入りのカトリック。ということで、エイジェントを通じてトールキンに打診したところ、そんなオファーは世界のどこからもなかったそうで、The HobbitとThe Lord of the Rings、Mr Bliss、Farmer Giles of Hamのすべてのマニュスクリプトをまとめて買い取ったのだそうです。

さて、いくらだったと思いますか?

なんと全部ひっくるめて5000ドル。当時のOxfordの教授の一年間の給料に相当する額だったそうで、トールキンは身の回りの人にこのオファーについて相談したらしいのですが、周りの人たちが、そんないいオファーはもうないかもしれないから受けなさいとアドバイスしたそうです!
マーケット大学、すごい先見の明というか・・・。

というわけで、トールキンの手書き原稿が、アメリカ中西部の街、ミルウォーキーの大学に収まることになったという意外な展開にあいなったわけです。

今日見せてもらったのは、20点ほどだったでしょうか。『ホビット』のもう最終段階 ゲラの最後に、トールキンが大幅な変更を加えているものとか、『指輪物語』のMazarbulの書の何種類ものアートワーク、そうそう、『ホビット』の水彩画の表紙もあって、現在出回っているものとは色調が違って、うっとり。もっと墨絵のような暗い色調なのですが、黒に金色が混じったような背景が神秘的な雰囲気を醸していてすてきでした。

トールキンは第二次大戦の時にはもう年齢的に実戦に参加しなかったわけですが、night watcherをやっていたらしく、その時に月の満ち欠けの研究をしたらしい記録もありました。『指輪物語』の月の満ち欠けの丹念な計算もそういう経験から来ているんですね。

あ、ついでにRichard Armitageが朗読している、The Night Watch for Englandもお聞き下さいね。(^_-)-☆


トールキンのお宝は写真撮影できないので、Marquette大学のキャンパスのお花です。みんな昨日7時半頃撮った写真。

冬が長〜く、やっと春が到来して、一斉にお花が咲いてとてもきれいです。




これはキャンパスからダウンタウンを抜けて30分ほど歩いた湖畔にあるアート・ミュージアム。


そうそう、トールキンの手稿に話が戻りますが、『指輪物語』のRing verseの原稿もあって、まだエルフに9つの指輪、ドワーフに7つの指輪(これは変わりませんね)、人間に3つの指輪っていうヴァージョンを見ました。ご存知のように、最終的にはエルフに3つ、人間に9つですよね。

『指輪物語』のラストのサムの"Well, I'm back"という台詞で終わらずに、トールキンが用意していたエピローグの原稿も二種類展示されていました。これはThe History of Middle-earthで読めますが。

Frodo & Sam, Gandalf Gondor, Aragorn Théoden, Enemiesという4つのグループが、何月何日にどうしていたか、という詳細な表もあって(それもトールキンのこと、何種類も)、ばらばらに分かれたストーリーが互いにどう関連しているかを、念入りに計算しつつ書いていた様子がわかって、これも面白かったです。

戦時中の紙不足の中、学生のレポートの裏紙を使ったり、トールキンが作成した古英語の試験問題もあったり(びっくりの難しさでした!(*_*))コレッジのディナーのメニューの裏だったり、そういうのを見るのも楽しいですね。

コメント

_ jade ― 2013/05/19 00:55

GM さま

うわぁ〜〜ん、いいなあ! この大学凄いお得な買い物しましたね。57年の段階でトールキンに眼を付けるなんて、誰が選んだのでしょうね。まだ米国でブレイクする前ですものね。米国でブレイクするのは60年代でしょ。

指輪の中での対照表、欲しい。わたしは、なかなかあっちの話とこっちの話がつながらないのです。
月と言えば、フロドとサムが十字路で倒れた石像の頭に花の冠があるのに気がつく場面の月と、ガン爺とピピン(だったかな?)が見ている月が同じだというのは、どっかで読むまでてんで気がついていませんでした。だって、本では随分離れていますものね。

ところで、来週はいよいよ 'The Fall of Arthur' の発売ですね! GMさまはkindle で読めますね。わたしは未だに kindle 版はどうしようか迷っています。

_ grendel's mum ― 2013/05/19 14:43

jadeさま、

Marquetteにトールキンのmanuscriptsを入れたのは、William Readyという人で、新設の図書館の蔵書獲得の一環で、カトリック作家であるトールキンに目をつけたようです。まだトールキンが大ブレイクする前のことですから、本当にラッキーだったわけですよね。9000点にも及ぶ手稿をたったの5000ドルなんてね。トールキン自身がすべてのホビットと指輪の手稿はマーケットに、と約束していたので、後になって出てきた草稿や、クリストファーがThe History of Middel-earthを編纂し終わった時点であらたに大学宛に送って来たそうで、つまりもちろん何の追加のお金なしにということですから、良心的ですよね。

それから、そうそう、フロドとサムが見たその月を、ピピンが見るというのも、ちゃんと表にありましたよ。月だけでなく、不吉な夜明けもそれぞれが目撃していることなども書かれていました。

私、The Fall of Arthurは発売日まで待とうと思って、まだのぞき見していません。ハードカバーもプライムで頼んだから、2日後に来るのかな。国土が広すぎて、日本と違ってプライムも翌日配達っていうわけにいかないようです。来年のカラマズーではこの作品をテーマにしたセッションも企画されているらしいですね。

_ まあちゃん ― 2013/05/20 15:41

こんにちは^^

GMさま、ご紹介ありがとうございます!ほんと、この大学は先見の明がある&トールキンもほんと律儀な方なんですね(オックスフォードは悔しかったのではないでしょうか?)手稿とか本物を見ると感動しますよね^^

 今東京ではダビンチの「アトランティコ手稿」展をやってますが、感動ものではありましたが、ダビンチのメモ書きの訳がないのがちょっと残念でした。

_ jade ― 2013/05/20 19:04

ひえ〜〜! 9,000点を5,000ドルですか! 今では信じられない値段ですね。しかも、クリストファーさんも律義だわ〜。

だけど、そうするとクリストファーさんが編纂するのにも見られなくて、ファクシミリだかコピーだかを使って仕事したって原稿は、何なの? あ、中つ国の歴史関係のか。

_ grendel's mum ― 2013/05/20 20:51

ハードカバーのFall of Arthur、発売日に配達してくれるみたいです。わ〜い。

jadeさま

そうそう、クリストファーが言っていたのは、ボードリアンにあるものでしょう。

9000点になったのは、後から送られてきた分がかなりの量だったみたいですけど、分散せず一カ所に置いておくというのは賢明。しかし、今だったら、あのMazabulの書のアートワーク一枚だって買えないでしょうに。

まあちゃん、

そうですね、手稿ってやっぱり作者のスピリットを感じられるというか、魅力的ですね。ダビンチの展覧会、おもしろいものをやっているんですね。

_ jade ― 2013/05/23 11:49

今日は The Fall of Arthur の発売日ですね。
ところで、これに合わせてボードリアン図書館で、この原稿の初展示が行われています。うう、いいな〜。見たいわぁ。

http://tolkienlibrary.com/press/1085-Fall-of-Arthur-Manuscript-Publication-Exhibition.php

_ grendel's mum ― 2013/05/23 13:27

jadeさま、

うわあ、ありがとうございます!うれし〜〜〜、この展覧会、すっごく楽しみです。クリストファー、編集が終わったので、原稿をボードリアンに預けたってわけかしら。まだ彼が持っているものってけっこうあるはず・・・。
トールキンだけでなく、ルイスとかプルマンとかアラン・ガーナーとかのもあるのね、わ〜い!

まだこちらは23日まで30分ほどありますが、あれ、日本のamazonでKindle買ったんだからもう届いているかも・・・おおお、もう届いておりました!でも今から読んでたら明日起きられない・・・ああ、どうしよう。
明日、ハードカバーも配達されるはずだし〜。∈^0^∋

_ jade ― 2013/05/23 16:50

ぐわ〜〜ん、なんで The Fall of Arthur を英国から送ったよメールが届かないのかと思って調べてみたら、一緒に頼んだものに、まだ未発売のものが含まれているので、届くのは7月なんだわ〜〜! ぐぐぐ、これはやっぱりkindle を買うか、日本で本を買うか。(T T)

_ jade ― 2013/05/23 17:04

結局米国密林から、kindle 版を買っちゃいました。日本より微妙に安かったし、kindle はいつもここから買っているので。
GM さまは、日本のとアカウントの統合をしているのですか? わたしは、統合してしまって読めなくなるのがあると困るし(それほど入っていないけど)、なんか面倒。

_ grendel's mum ― 2013/05/24 07:33

jadeさま、

今帰宅したとことなので、これからFall of Arthur読みます!

私が今持って来ているiPadは、Kindleには日本のamazonで買ったものが一杯入っているので、怖くてアカウント統合って試していません。アメリカのKindleは、古い日本に置いてきた(息子が今は使っている)iPadに入るようになっているのです。

日米両方のKindle storeを一つのiPadで使うには、アカウントの統合が必要ということになるようで、なんとかそんなことしないで済ませられないかとけっこう試行錯誤してみましたが、挫折。

まあそんなことより早く読もうっと!

_ grendel's mum ― 2013/05/24 11:24

HarperCollinsさま、お願いです、お願いです!
The Fall of Arthurのオーディオブックはリチャード・アーミティッジでどうかお願いします!

古英語の頭韻を現代英語の詩に活かそうとしたトールキンの試み、リチャードなら上手に頭韻を響かせて読んでくれます、絶対。

このトールキンの翻案、未完なのが残念ですが、でもカーペンターが伝記で引用していたグウェネヴィアに対するモードレッドの邪念の場面しか、今まで明かにされていなかったのですもの。未完とはいえ、これだけ読ませてもらえれば十分満足がいきます。

面白かったですねえ。トールキンの作品の中で、こういう暗い性の情念を描いた場面って例外的じゃないでしょうか。モードレッドがグウェネヴィアの部屋へ登っていく場面なんてドキドキしちゃいました。それに、ランスロットとの関係も中世の作品よりロマンティックでいいわ。

短い詩ですが、その後のクリストファーによる解説が圧巻です。来年のカラマズーの中世学会ではこのThe Fall of Arthurのセッションが予定されているようですが、クリストファーがこんなに徹底してやっちゃったら研究者の出番がなくなって、彼らが困るんじゃないの〜、なんてそんなことはないか。

ああ、久しぶりに興奮しました〜。もう一回読んでから寝ようっと。

_ jade ― 2013/05/25 00:23

GM さま

え〜〜、もう読んだの! わたしは、前書きだけ読んだけど、あとは明日が終わらないとお預けだわ〜。

HarperCollinsへのお願いは、Twitter でつぶやくべし。ここで、日本語で言っていてもしょうがないでしょうが。

_ grendel's mum ― 2013/05/25 02:16

jadeさま

あはは、確かに。ねえ、やっぱりKindle版より本がいいわね、こういうのは。ハードカバーといっても紙が軽いから重たくない。

クリストファーって1924年生まれで88歳なのね。これがほんとに最後の大仕事ってことね。すごい気合いの入れ方よ〜、お楽しみに。

_ jade ― 2013/06/09 02:35

こちらに、The Fall of Arthur の感想(評というほどのものじゃない)が載っています。

http://notionclubpapers.blogspot.jp/2013/06/review-of-fall-of-arthur-by-jrr-tolkien.html

うう、仕事が溜まりすぎていて、というか溜まる一方なのに飛び込みの仕事まであって、いまだにちゃんと読んでいません。

_ grendel's mum ― 2013/06/09 04:05

jadeさま

クリストファーの解説が本の大半を占めるといっても過言ではないので、とりあえず詩の部分だけならそう長くないわよ。
本格的な書評はまだこれからでしょうね。

_ jade ― 2013/06/14 20:37

GM さま

'Children of Hurin' のサイン入り豪華本がeBay に出ています。アラン・リーともう一人はクリストファーのサインかな?
ただ今$500です。

http://www.ebay.com/itm/Tolkien-Children-of-Hurin-Deluxe-Signed-Edition-/251289633805?

_ grendel's mum ― 2013/06/15 04:01

jadeさま、

アラン・リーとクリストファーのサインですね。むずむず。

ボードリアンのMagical Booksという展示のことも記事にしなければね。ところが、これ、さすがと言うしかないコレクションの数々で(The Conversation with Smaugもあります)、それなのに、展示作品のリストさえないんですよお。あまりにお宝持ちすぎていて、無造作?日本だったら、豪華カタログ作っちゃうような展示なのにねえ。
自分でノートとるしかなくて・・・はい、そのうちやります。

_ jade ― 2013/06/16 01:02

うう、それ、写真に撮ることはできないんでしょうねえ。ああ、考えただけで、よだれが〜。
ところで、今日はね、ビアズリーの絵がついたマロリーが40万円弱で出ていました。

_ jade ― 2013/06/19 01:27

トールキン・エステイトが、'The Fall of Arthur'のクリストファーの序文をオンラインで公開しました。

http://www.tolkienestate.com/the-fall-of-arthur/

_ jade ― 2013/06/19 01:37

もう一つニュースです。

http://news.mymiddleearth.com/2013/06/18/previously-unknown-tolkien-poem-discovered/

束教授の、これまで知られていなかった詩が見つかりました。

_ grendel's mum ― 2013/06/19 07:46

jadeさま、

これまた貴重な情報、ありがとうございます。この発見された詩、トールキン・エステイトの管理下にないから、こうして発表できてよかった。

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